ネット販売ではないリアルでのビジネスだからこそあるもの

1日100件の飛び込みをする研修から見えてきたこと

いつもしているネットの話から離れ、今回はネット以前のアナログ的な話になります。

もう40年近く前のことですが、私が新卒で入社したての頃、販売研修としてローラー訪問をやらされたことがあります。

それは、あるテリトリーを割り振り、そこの家庭を片っ端から訪問しまくる、というかなり強烈な研修でした。

この研修とは「訪問販売」の訪問件数ノルマのウルトラ版とも言えるもので、初対面という状況を短期集中的に作り出すことで、精神的な慣らしをするためものです。

一日平均100件の門を叩き、相手から自社の製品についてのアンケートを取る、というもので、販売はありません。

この研修は、新人研修としてのメンタルトレーニングの側面もあったのですが、自社商品の正確なシェアを調べることも目的であったのです。

それは、当時もてはやされていたランチェスター戦略という理論に基づいて市場をエリアに分割し、エリア毎の全数調査を行うもので、訪問したふりをして適当にアンケート結果を捏造するというズルができない研修でした。

この研修は一週間続いたので、最低でも500件の飛び込みを行う計算になりますね。

まあ、やってみればわかると思いますが、人間はいかに拒絶されることを恐れているか、ということを身を持って体験できました。

面白いことに、この研修の最後の方になると、この「心の傷」がいかにバカバカしいセンチメンタルなものであるかがわかってきます。

人間という生き物は「慣れ」というものを通じて、メンタルが強化されるものなのです。

また、不思議と顔つきや物腰も変化していき、本物のセールスマンに見えて来るのが不思議です。

入社して2週間しか経っていないのに、全員4、5年の経験者の雰囲気を漂わせ始めていました。

自分ができない、と思っていることを体験してみるとわかってくることがある

これやってみてわかったことですが、訪問に対して「セールスお断り」的な反応を返す人は、本人自身が自分から積極的に声をかけるタイプの人ではないのです。

表情も険しいし、警戒感丸出しで言葉もつっけんどん。
家の中も薄暗いというように、外に向かうエネルギーの気配がみじんもありません。

逆に明るい声で応対してくれる方というのは、物腰も柔らかく、まずこちらの話を聞く姿勢を持っておられます。

家のなかも採光に富んだ明るい雰囲気があり、自然とこちらの気持ちもなごませていただく事もしばしばありました(笑)

研修当初、想定していた攻撃的な拒絶を受けることはあまりなく、また受けても、こういう攻撃性を伴った拒絶というものはあまり心の傷にはなりませんでした。

想定外だったのは、ネチネチとした陰湿な雰囲気の応対をされるというパターンです。

このような雰囲気の方は、先ほど述べたように家の中が暗く、チャイムを押して応答した時のインターフォン越しの声のトーンでわかります。

そういった場合には、こちらから「宅急便で~す」とうその名乗りして、名前を間違えたふりをしてそそくさと退散してしまうという、防衛行動を自然に行うようになります。

訪問販売をいやな商売だと言う人は、実はこういうネガティブな人、つまり保守層なのです。

この研修は誰もが一生に一回はやるべきものだな、と思っています。

人に対する恐怖心がなくなるし、人間には色々なタイプがあることを身をもって経験できるからです。

そして、私にとってこれが最も大きかったのですが、他人に対するアプローチ、つまり会話の組み立て、自分の印象の大切さがわかるようになるのです。

つまり、人からどう見られているのか?がわかるのです。(それに対し、どう思われているのかは、付き合いが深くなった人との間でのことです。)

最初の売上に感動しなかったわけ

私は当時、新しく開発された家庭用のデジタル表示式血圧計を製造・販売する会社に在籍していました。

本来の営業先は問屋や量販店なのですが、研修の一環として百貨店の健康器具コーナーでの実演販売も”やらされ”ました。

自分自身、意外だったのは、最初の売り上げが上がった時に、全くといっていいほど感動がなかったことです。

多分それは自分で方々を駆けずり回ったりして、やっとの思いで買ってくれそうな人をつかまえ、一生懸命セールスをして売り上げを上げる、という入社前のセールスに対するイメージとはかけ離れた状況で生まれたからかもしれません。

結局、メーカーという立場では小売りのノウハウがないわけですから、百貨店の売り場という環境とノウハウを「借りて」自社の製品を販売しているわけですね。

百貨店の店舗にはすでに人が集まっているわけで、私は自分のコーナーにふらりと来るお客さんにちょっと声をかけて、機械を試してもらうだけなのです。

もちろん血圧計なんて試す人は、ほとんどが高血圧症の人ですし、医者からも家庭で血圧測定を勧められているわけですから、試した人はほとんどの人がお買い上げ~という状況でした。

販売はセールストーク「だけ」では決まらない

健康器具コーナーでの研修は、売上ノルマがなかったので気楽なものでしたが、それでもお試ししてくださるお客さんには自然と説明に熱が入るものです。

もしノルマがあったら、「どうです?いいでしょ?買いませんか?」という言葉が出たと思いますが、単に時間つぶし的感覚の研修だったので、聞かれたことには答える、という程度の応答しかしませんでした。

しかし、その百貨店のコーナーは全国でも1、2位を争う健康器具売上を誇っていたので、ほぼそんなぶっきらぼうな説明員の説明でも本当にポンポンという感じで売れていったのです。

研修から戻って同僚と話をしたのですが、やはり私の配置されたコーナーの売り上げは断トツで、他は1日で1台、多くても2、3台という数字でした。

新卒で販売やマーケティング、売り場作りなど、全く知らない人間がこのように断続的に売り上げが上がる状況を見ていると、感覚的にそれが当たり前のように思えてきてしまいます。

ですが、研修後の仲間との話を聞くことで、「なるほど、”販売の場”そのものにも力がある」ことが認識できたわけです。

「場」というものの力

販売という行為をよく「口八丁、手八丁」という言葉を使って、いかにも簡単なことだ!ということを言う方がいらっしゃいますが、それは全くの間違いです。

訪問研修でわかったことは、「最初にコンタクトを取る」ことが一番難しいこと。また、販売研修では「販売の場」そのものが持つ力がセールスの最終局面に導くまでの想像以上の力になっていたということです。

人がモノやサービスを購入する瞬間というものには、いくつかのセオリーがありますが、私が個人的にも「ああ、なるほど」と思うセオリーは、「買おうとしているモノやサービスに対して複数の視点から納得したときに購入決断がなされる」ということです。

店舗という販売の場において、私が過去にしでかした失敗の一つであり、最大の間違いは、店舗内のPOPを売上ランクに基づいて一定以下のものを取り外してしまったことです。

つまり、売れてるもののPOPだけを残した店舗にしてしまったのです。

これをやった結果、売り上げがどうなったか?というと…半分近くまで落ち込みました。

これは数値主義者が陥る経営、店舗設計・運営における間違いですね。

販売をセールストークに対する「はい、買います」という対応関係で捉えてしまっているわけです。

業種や店のコンセプト、キャッシュポイントの配置によって、POPの量は適量が違いますが、POPというものは増やす方向では問題は起きないのですが、減らすと急激に売り上げへのダメージが生じることがあります。

お客さんは、情報はもらうもんだと思ってる

百貨店やGMSの理論というのは、簡単にいうと「来場者を買い物情報パニック」に陥れることです。

ショッピングパークのデザインは基本的に「カオス」です。
IKEAの迷路のような導線設計は専門家の間では有名です。

つまり、お客さんの視界に一度にたくさんの商品情報を入力するようにしているわけですが、そうすると「衝動買い」が起きるのです。

百貨店の売り上げがバブル直後と比較して半分になってしまった今では、こういうカオス効果はあまり注目されませんが、基本的習性であることは間違いありません。

同時的に複数の商品情報が入って来ると、本能的に比較をします。値段、質、購入後のシミュレーションなど勝手に始めます。買い物はこういう状況が楽しいのだという人もいます。

販売側は情報を一度に大量に与える効果を知っていたので、タダで情報提供することが当たり前だと今でも考えているわけで、お客さんもそれに慣らされてきたわけですから、「情報はタダ」と思うのも無理ありませんね。

インターネット販売は想像の世界に近い

なぜ、このような話をしたかというと、ネット販売には誤解を招くような空言が多いような気がしたからです。

ここ10年ほどの間に、個人でも相当な売り上げをあげている人が出てきています。

それはそれで結構なことですが、ビジネスをあまりにイージーに語る人が増えすぎると、ビジネスが嘘っぽく捉えられてしまいます。

もちろんネットはリアルと環境が異なるので、リアルのアナログ的な見方を押し付けるつもりはありません。

リアルのビジネスを語ってしまうと、それはネットに比較して重く受け止められてしまうかもしれませんが、複数の視点からビジネスというものを評価できることは、これからの人生を思い通りの方向に舵を切る上で必要だと思うのです。

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